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大阪高等裁判所 昭和48年(行コ)20号 判決

控訴人(原告) 日本貨幣計算機株式会社

被控訴人(被告) 大阪南税務署長

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、控訴人

原判決を取り消す。

被控訴人が控訴人の昭和四四年九月一日より昭和四五年八月三一日までの事業年度分法人税について、所得金額を金一億九、四二六万〇、五〇〇円と更正し、過少申告加算税金二八万四、六〇〇円を賦課した処分を取り消す。

訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。

二、被控訴人

主文同旨の判決。

第二、当事者双方の主張は、次のとおり付加するほか、原判決事実摘示のとおりであるから、これを引用する。

一、控訴人の主張

法人事業税の納付義務が事業年度終了の時に成立するとしながら、その時点における納付義務は未だ抽象的なものであり、その後一定の手続を経て所定の期間内に納税申告をすることによつて納付義務が具体的に確定するものと解した原判決は、法律の解釈を誤つたものである。

(一)  法人事業税の徴収につき、地方税法七二条の二八第一二項、七二条の二五第二項は、当該事業年度終了の日から二月以内に申告納付すべき旨ならびに右申告納付は確定した決算に基づいてしなければならない旨を規定している。ここにいう「確定した決算」とは、株式会社の場合には、通常、株主総会の承認を得た決算をいうものであるが、右の二か月の期間内に株主総会の承認を得ることは十分に可能であり、商法上は定時総会の開催期限について規定はないものの、実際上は各会社とも決算期から二か月以内に定時総会を開催することとしており、控訴人においても、定款をもつて同様の趣旨を定めている。

他方、法人税法七四条一項、七七条によれば、内国法人は、法人税につき、各事業年度終了の日の翌日から二月以内に税務署長に対し確定した決算に基づき申告書を提出し、かつ、その期間内に申告書記載の金額を納付しなければならない。この申告も事業年度終了後の株主総会の承認を経た計算書類を基礎とするものであるが、会社が決算期到来の日すなわち当該事業年度の末日においてその計算書類につき株主総会の承認を得ることは事実上不可能なことであるので、二か月の期間が定められているのである。

したがつて、事業年度の末日において計算書類につき株主総会の承認を得ることが不可能であるということが法人事業税について当該事業年度終了時に納付義務が確定しないということの理由となるならば、法人税についても同様といわなければならないこととなる。

(二)  右のとおり、地方税法七二条の二八第一項、七二条の二五第二項の規定と法人税法七四条一項、七七条の規定との間にその解釈および取扱いを異にすべき理由はない。そして、事業年度終了の日から二か月以内に法人税の申告書を作成する時に同時に法人事業税の金額が計算上確定され、この法人事業税を当該事業年度の損金とした法人税の申告納付、ならびにその損金とされた法人事業税の申告納付をほぼ同時期になしうるのであり、この間に特別の手数を要しない。すなわち、法人税の申告書作成時に同時に法人事業税の金額が具体的に確定され、その納付義務が生ずるものである。

(三)  地法税法七二条の一四第一項が「当該各事業年度の法人税の課税標準である所得の計算の例によつて算定する」と規定するのは、法人税の課税標準である所得の計算と同じ方法によつて計算する旨、単に計算方法を規定したにすぎず、法人税の課税標準金額と法人事業税の課税標準金額とが同額であることを規定するものではない。したがつて、右両者が同額であることを前提として、法人税の課税標準の金額を計算するにあたり当該事業年度の法人事業税の金額を控除することが技術上不可能であるとする被控訴人の主張は誤つている。

(四)  さらに、前記のとおり、定時総会における計算書類の承認によつて確定された決算をもつて法人税および法人事業税の課税標準金額とするのが通常ではあるが、法人税法および地方税法に定める「確定した決算」とは、法人税法二二条、地方税法七二条の一四等に規定する算定方法に従つて算定した決算を意味するものであり、右各法上、課税標準金額は株主総会の承認を経たものでなければならない旨の規定は存しない。また、何らかの事情で定時総会において計算書類の承認を得られない場合でも、事業年度の末日から二か月を経過したときは、右承認の未了を理由に法人税、法人事業税の申告納付をしないことが許されるはずもない。したがつて、定時総会の承認前でも、当該事業年度の末日を経過し、右各法律に定める算定方法によつて益金、損金を算定すれば、「確定した決算」となるものと解すべきであつて、定時総会開催の日以前には法人税および法人事業税の各金額を具体的に計算し確定することができないものというべきではない。

(五)  前記のとおり、法人税も法人事業税も事業年度終了の日から二月以内に確定し申告納付すべく定められていることは同様であり、法人税につき、内国法人の各事業年度の所得の金額は当該事業年度の益金の額から当該事業年度の預金の額を控除した額とされ、法人事業税は右損金の額に算入されるものであるが、これを翌事業年度の損金としなければならない旨の規定はまつたくない(地方税法七二条の一四第一項は前記のように課税標準の計算の方法を規定したにすぎず、法人事業税を当該事業年度の損金としてはならないという趣旨を含むものではない)。したがつて、当該年度の法人事業税は、その年度の損金として計上するのが、むしろ正当な解釈というべきである。

(六)  国税通則法は、地方税までも率するものではないが、同法一五条、一六条、納税義務が事業年度終了の時に成立発生し、申告によつて税額が確定する旨を規定したものと解すべく、したがつて、仮りにこれを法人事業税に準用するとしても、法人事業税は当該事業年度終了の日にすなわち同年度内に納税義務が成立発生するものであり、これに地方税法七二条の一四の規定とをあわせ考えれば、当該事業年度の法人事業税は法人税につき当該事業年度の損金とならざるをえない。被控訴人の主張は納税債務の成立確定と税額の確定とを混同するものである。

二、被控訴人の主張

(一)  地方税法七二条の一四に規定されているとおり、法人税も法人事業税も、その課税標準となる金額は同条但書に該当する場合を除いて同額となること、その結果、当該事業年度の事業税の金額を控除して同一事業年度の法人税の課税標準の金額を計算するようなことは技術的に不可能であることについては、すでに主張したとおりである。当該事業年度終了後二か月以内に計算書類承認のための定時総会が開催されて初めて、法人税および法人事業税の課税標準金額の基礎となる会社利益金額が確定し、その確定した会社利益すなわち確定した決算に基づいて申告納付がなされるのであるから、右総会開催の日以前には、法人税の金額も法人事業税の金額も具体的に計算し確定することはできないものといわなければならない。法人事業税の金額が法人税法二二条三項二号にいう「その他の費用」に該当するものである以上、債務の確定した日を含む事業年度の損金としなければならず、当該事業年度終了後に開催される定時総会の日以後に申告により具体的に債務が確定するのであるから、この日を含む事業年度すなわち翌事業年度の損金として処理すべきものであることは明らかである。

(二)  法人税の申告書作成時に同時に法人事業税の金額が具体的に確定しその納付義務が生ずる旨の控訴人の主張(二)は、原判決を違法とする理由と結びつかない。国税通則法一五条、一六条の規定によれば、法人税は、事業年度終了の時に成立し、申告により確定するのが原則であり、したがつて、法人税の金額の確定もやはり翌事業年度である。法人税の申告書の作成時に同時に法人事業税の金額を具体的に計算することが可能であるとしても、だからといつてその計算された事業税が同時にその計算されるその事業年度の法人税の計算上損金となるという理論にはならない。

第三、証拠関係〈省略〉

理由

当裁判所も、被控訴人のした本件処分は正当であり、その取消を求める控訴人の本訴請求は理由がないと判断するものであつて、その理由は、次のとおり付加するほか、原判決理由中の説示と同一であるから、これを引用する。

(一)  国税通則法一五条、一六条によれば、法人税については、納税義務は事業年度終了の時に成立し、申告によつて具体的に確定するものであることが明らかであり、地方税である法人事業税についてもこれと異なる解釈をすべき理由はない。控訴人は、これら各税につき納税義務は事業年度終了の時に発生し、申告により税額が確定するにすぎない旨主張するが、これら各税については、その課税標準たる所得の金額の計算上、法人が、自己の意思に基づき、法定の限度内において内部計算により損金への算入を決定しうる事項が存在することからいつても、申告は、すでに客観的に確定している税額を計数上明らかにするにすぎないものではなく、納税義務の内容を具体的に形成し確定するものであることが明らかであり、したがつて、申告以前においては、納税義務は、具体的内容、金額の確定しないものと解される。

そして、法人税法二二条三項二号は、法人税の課税標準たる所得の金額の計算上損金に算入されるべき「その他の費用」の額については、当該事業年度終了の日までに債務の確定しないものを除く旨明記しているのであるから、右のとおり、申告以前において具体的に債務の確定していないものと解される法人事業税の額は、当該事業年度の法人税の課税標準の計算にあたつては損金に算入することはできないものというほかはない。

(二)  法人税の課税標準たる金額の計算にあたり、当該事業年度の法人事業税の金額を損金として控除することが技術上は不可能ではないとしても、地方税法が、法人事業税につき、その課税標準たる所得の金額は、当該事業年度の法人税の課税標準である所得の計算の例によつて算定するものとしていること(七二条の一四第一項)、その申告納付は、法人税について(法人税法七四条)と同様、各事業年度終了の日から二月以内に確定した決算に基づいてしなければならないとしていること(七二条の二五第一、二項)、申告にかかる事業税の課税標準たる所得および税額について、当該事業年度の法人税の課税標準を基準として更正をするものとし、事業税の申告書の提出がない場合にも、同様の基準に基づいて所得および税額を決定しているものとしていること(七二条の三九)などの諸点からみれば、法人税と法人事業税とで課税標準たる所得の金額が相違することは、法人税法および地方税法上原則として予定されていないところと解される。また、右にいう確定した決算とは、株式会社にあつては株主総会による計算書類の承認を経た決算を意味することが文言上明らかというべきであり、仮りに会社の内部的事情等により申告期間内に総会の承認を得られない場合があつても、そのことは別個の問題というほかはない。

さらに、このように当該事業年度終了の日以後においてなされる決算の確定およびこれに基づく申告によつて初めて税額が確定される法人事業税の額を、当該事業年度の申告において損金として計上するのを相当とすべき実質的理由は何ら認められず、翌事業年度の損金とすることによつて納税義務者たる法人に格別の不利益を生ずるものではないと解される。

そのほか、控訴人の主張するところを検討してみても、以上の判断を左右するに足りない。

よつて、原判決は相当であつて、本件控訴は理由がないから、行政事件訴訟法七条、民訴法三八四条、九五条、八九条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 大野千里 野田宏 中田耕三)

原審判決の主文、事実及び理由

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一申立

一 請求の趣旨

「被告が、原告の自昭和四四年九月一日至昭和四五年八月三一日事業年度分法人税につき、所得金額を金一九四、二六〇、五〇〇円と更正し、過少申告加算税として金二八四、六〇〇円を賦課した処分を取消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決を求める。

二 請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨の判決を求める。

第二主張

一 請求原因

1 原告は、昭和四五年一〇月三〇日被告に対し、原告の昭和四四年九月一日から昭和四五年八月三一日までの事業年度(以下本件事業年度という)分の法人税につき、所得金額を金一八〇、三〇二、六四〇円と申告したところ、被告は昭和四五年一二月二六日付で原告に対し、所得金額を金一九四、二六〇、五〇〇円と更正するとともに、過少申告加算税として金二八四、六〇〇円を賦課する処分をした。被告の右処分は、原告が本件事業年度の所得に対する事業税の金額を当該年度の損金として計上したのを否認したことによるものであつた。

原告は、被告の右処分につき異議申立をしたが、棄却され、さらに大阪国税不服審判所長に対し審査請求をしたが、これも棄却された。

2 しかし被告の右処分は、つぎの理由により違法である。

法人の事業税は、当該事業年度の終了の時に納税義務が成立する。そして、当該事業年度の所得に対してどれだけの事業税が課せられるかは、事業年度の終了の時には一義的に明確なのであつて、右時点においてすでに事業税の納付義務は具体的にも確定しているのであるから、当該事業年度分の事業税の金額は、法人税法二二条三項二号の「その他の費用」としてその事業年度の損金の額に算入すべきである。法人事業税については申告納付の方式がとられているが、納税者の申告は事業年度の終了時すでに具体的に確定している納税義務を明示する手続であり、租税債務を確認する方式にすぎないのであつて、納税者が事業年度終了時において当該事業年度の事業税額を算出することは可能であり、これを当該事業年度の法人税における損金として計上している以上、そのように取扱うべきは当然である。

よつて被告のした右処分の取消を求める。

二 被告の認否と主張

1 請求原因1の事実は認め、2の主張は争う。

2 本件事業年度の所得に対する事業税の金額は、次期事業年度の損金に計上すべきである。

法人事業税は申告納付方式による地方税であるが、その課税標準としての所得の概念は法人税のそれと全く同一であつて、特別の定めのある場合を除くほか当該事業年度の法人税の課税標準である所得の計算の例によつて算定するものである(地方税法七二条の一四)。すなわち、法人事業税も法人税と同様に当該事業年度の確定した決算にもとづいて申告納付されるもので、事業年度の終了によつて抽象的な納税義務は一応成立するけれども、これが具体的租税債務として確定するのは申告納付のとき(事業年度終了の日から二月以内とされている)であり、当該事業年度終了の日までに債務の確定したものといえない。のみならず、地方税法の右規定からすれば、法人税の課税標準となる所得金額と事業税のそれとは原則として同額でなければならないのであるが、原告の主張するところに従えば、それは技術的に不可能なこととなる。したがつて、本件事業年度の事業税をその事業年度の損金に計上しえないことは明らかである。

理由

請求原因1の事実は当事者間に争いがない。

法人の納付する事業税が法人税法二二条三項二号にいう「その他の費用」に該当し、損金となることは明白である。問題は、これがどの事業年度の損金に計上されるべきかということであり、それはいいかえると債務の確定する時期はいつかという問題に帰着する。

地方税法によれば、法人事業税の課税標準は、特別な場合を除き、各事業年度の所得金額によるのであり(七二条の一二)、この所得金額は当該事業年度の法人税の課税標準である所得の計算の例によつて算定される(七二条の一四第一項)。そして法人事業税の徴収については申告納付の方法によることとし(七二条の二四)、事業年度の期間が六月をこえる法人については、事業年度開始の日から六月を経過した日から二月以内に中間申告納付、事業年度終了の日から二月以内に確定申告納付をすべきこと(七二条の二六第一項、七二条の二八第一項)、確定申告納付は確定した決算にもとづいてしなければならないこと(七二条の二八第二項、七二条の二五第二項)が定められている。

地方税法には、納税義務の成立および税額の確定に関して国税通則法一五条、一六条に相当する通則的規定はおかれていないが、法人事業税の課税標準、徴収方法等が原則として法人税と同様に定められていることからみて、法人事業税の租税債務としての成立、確定に関し法人税とちがつた取扱いをする理由はない。すなわち、法人事業税の納付義務は(中間申告納付の場合は別として)事業年度終了の時に成立するが、その時点においては納付義務はいまだ抽象的なものであり、その後一定の手続を経て所定の期間内に納税申告をすることによつて納付義務が具体的に確定するものと解すべきである。なんとなれば、法人事業税の計算の基礎となる所得金額は、事業年度終了と同時に自動的に確定するものではなく企業会計における通常の損益計算に税法所定の調整を行なつて、はじめて算定されるものであるところ、前述のように地方税法は法人事業税についての確定申告納付は法人の確定した決算にもとづいてこれをなすべきことと定めており、その趣旨は納税申告が法人の確定した意思に基づいて適正に行なわれることを確保するにあると解されるから、ここにいう確定した決算にもとづく申告とは、株式会社においては、決算期到来後の株主総会の承認を経た計算書類を基礎とする申告を意味するものと解すべきであり、しかして、このことは、会社が決算期到来の日すなわち当該事業年度の末日において、その計算書類につき株主総会の承認を得ることは事実上も法律上も不可能であつて、事業年度終了時までに法人事業税の課税標準および税額を計算確定させることができないことからもいえるところである。してみると、事業年度終了の時にはいまだ納付義務の内容の確定していない当該事業年度の法人事業税の金額(中間申告納付分を除く)は、当期の法人税の課税標準の計算にあたり損金に算入することはできず、翌期の損金とすべきものといわなければならない。

よつて、原告の主張する当期事業税の金額(これが中間申告による納付ずみの分を含まないことは弁論の全趣旨から明らかである。)を損金に算入しないとしてなされた被告の処分は正当であり、その取消を求める原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

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